さて今回は、農地に係る税金の支払いを猶予する制度について解説していきます。
実は農地というのは、面積が大きい、固定資産税がかかる、草むしりが大変、にもかかわらず兼業で農業をやってもほとんど儲けがないなど、資産というよりも負債に近い性質があります。
しかし、先祖代々相続してきた土地だから売るにも抵抗がある、、、。
しかも面積が大きいとそれだけで相続税の評価額も上がってきますから、市街化区域にある農地などは評価額が大きくなり、なかなか大変です。
それでも何とか農地を手放さずに農地を相続して、農業を続けてもらおうと国が用意している制度が、農地の納税猶予の制度です。
農地の納税猶予とは
ざっくりわかりやすく解説すると、農地にかかる税金の支払いを国が待ってくれる制度ということです。ただし、父の農業を息子が継ぐなど、相続人が農業を続けることが前提です。
待ってくれるということは、いつかは支払わなければならないのか?と思われるかもしれませんが、次のことが起こった場合には、農地の税金を全額払わなければなりません。
- 農業を続ける相続人(例えば父の農業を継いだ息子)が農業をやめた
- 猶予の対象となっている土地の面積の20%超を売った
- 3年に一度の届出を忘れた
これらのことが起こった場合には、支払いを待ってもらった税金にプラスして、年間4%から10%で計算した利子税も支払わなくてはなりません。
なお、国地方公共団体による収容が行われた場合には、利子税はかかりません。
支払わなくてよい場合
逆に、支払いを待ってもらった税金を支払わなくてもよくなるケースがあります。これを免除と言いますが、例えば以下の場合です。
- 農業を続ける相続人(つまり農業を継いだ子)が死亡した
- 市街化区域内の農地であれば、納税猶予の申告から20年が経過した
この場合には、もともと支払いを待ってもらっていた税金に加えて、加算されていた利子分の税金も支払う必要がなくなります。
必要な手続き
農地の納税猶予を受けるためには、相続税の申告前に様々な手続きを行っておく必要があります。
遺産分割協議書
どの相続人が何の財産をどのくらい相続するのかという遺産分割協議書を作成する必要があります。これは農地の納税猶予を使用しなくても、相続税の申告には必ず必要です。
ただ、農地の納税猶予を使用する場合には次に説明する農業委員会の適格者証明を受ける必要があり、その際に遺産分割協議書の写しを添付しなければなりません。
その関係上、通常の相続税申告よりも早めに遺産分割協議書を作成する必要があります。
農業委員会の適格者証明書
先ほど説明した遺産分割協議書やその他の書類を添付して、農業委員会に適格者証明願を提出します。これは今回納税猶予を受ける農地を相続する農業相続人が、納税猶予を受けることが適格かどうかを証明してもらう手続きです。
この証明書を農業委員会から取得して相続税申告の際に添付することが必要です。
なお、農業委員会の審査は、当月締めで翌月に審査されてから1週間ほどで書面が来ますので、相続税の申告期限から逆算して遅くとも2か月前には証明願の提出が必要になります(自治体による)。
例えば、4月末までに提出したものは5月末ごろの農業委員会で審査され、6月頭くらいに証明書がもらえるイメージです。
相続登記
次に相続登記です。通常、相続登記は相続税の申告期限までに終わらせる必要はありません。どちらかというと、相続税の申告がひと段落してから、司法書士に相続登記の手続きを依頼することが多いです。
ただ、農地の納税猶予を受ける場合には、相続税の申告期限前までに農地の相続登記を済ませておかなくてはなりません。
つまり、父親の田や畑を農業を引き継ぐ息子に名義を書き換えなくてはならないということです。これは、次に説明する担保提供書で該当の農地等の不動産を担保に提供する場合に必要となります。
担保提供書
銀行からの借り入れと同様に、納税猶予は国への借金(税金の支払いをとりあえず待ってもらっている)と同じですから、担保を提供しなければなりません。
担保は、納税猶予額に見合うものなら何でもよいです。自宅の土地や建物、相続する農地でも良いです。
ただ、あくまで担保に提供するのは農業相続人の所有物である必要があるため、不動産の名義が亡くなった父親のままだと、その不動産は担保に設定することができません。
ですので、先ほど説明した相続登記が、相続税の申告期限までに必要になるわけです。
なお、担保には物的担保以外にも、人的担保つまり保証人を設定することもできます。